夜の底は柔らかな幻〜第5章  

Phase 5 "flower crown"(495/Autumn)

 雲一つない快晴の昼下がり、ミンは鉱山町へ続く坂道を、颯爽と、みつあみをなびかせつつ、上っていた。
 左右の田畑では稲や麦がゆたかに実り、こがねいろのさざ波を作り、あぜ道では、農夫たちが刈り取る時期を相談しあっていた。向こうに見える土蔵では、収穫祭のだしものの着物が運び出され、派手派手しい紅色や紺色が重たげに積みかさねられていた。
 自然と、気持ちがさわやかになる。歩く足が、自然とステップを踏んでいる。でたらめな唄をいつのまにか歌っている。
「気持ちよさそうね、ミン」
「あら?」
 ミンは、ちょっと赤面して、歩みを止めた。──変な歌を聞かれてしまったかな?──。
「どうしたの? 何でそんなごきげんなのかな?」
 頭の上から聞こえてくる高い声は、……フィビアだった。彼女も、ミンが来たとき以来、この鉱山町に住みついているのだ。
「聞いてないの? 今日マイネク先生来るんだよ」
「ああ、そう?」
「それで、ね。……さっき、ライサさんに聞いたんだけど……マイネク先生、これからずっとここにいるんだって」
「ええっ? そうなんだあ」
 フィビアの声も、ちょっと機嫌よくうわずった。マイネクがケンネ町を訪れるのは半年ぶりのことだ。
「そう。これからは、このケンネ町の魔法使いになるらしいよ」
 無邪気に、ミンは喜んでいた。もちろんフィビアもうれしかったのだけど、心の中では、──そっかあ、マイネク、ようやく王城から脱出できたわけかあ……──と考えていた。
 ──ま、とにかく、マイネクがケンネに来てくれるなら、言うことはないわね──。フィビアは、肩をすくめて、苦笑いした。
「それで、ミン……いつごろ来るかわかる?」
「夕方ころらしいよ」
「じゃあ、午後の仕事すんでから、ってぐらいかな?」
「……そうだね。でも私、今日は昼すぎは何も言われてないから、食堂部の方へ行ってるよ」
 ミンは、動きやすい、シャツにズボンという恰好で、ゆうゆうと歩いていった。優しさに、あでやかさが加わり、森にいた頃とは見違えるほどだ。
 もともと上背があったうえ、ちょうどいちばん成長する時期だった。いろんな人からもらった服が、一季節でもう着られなくなって、合う大きさの女物がなくて、男物を身に着けていたこともあった。
 なにせ、体格のいいサイアルと並んでも、まだミンの方が少しだけ高いのだ。
 膝裏ほどまである、みつあみにした黒髪、ゆったりと闊歩するようす、自信に満ちた笑み、全てが、ミンのとてつもない可能性を証明しているかのようだった。
 “カゾリフの再来”、ミンはそう呼ばれていた。魔法能力も例をみないほどだったし、カゾリフも、黒髪に黒い瞳だったと伝えられていた。
  五十の年が十あって、
  銀色の碑が埋まるとき、
  カゾリフが帰ってきて、
  魔法の時代のとびらを開く
 妖精たちに伝わる、こんな歌があった。忘れかけられていた歌が、妖精たちのあいだで、はやりはじめていた。

「こんにちは」
 ミンは、厨房のとびらを開けた。夕食の準備に入っているおばさんたちの視線を集める。
「ああ、ミンさん、いいとこに来たわねえ。お魚がいっぱい届いてるから、適当にさばいててくれない?」
「どのくらいですか?」
「ある分全部やっちゃっていいわよ」
「はーい」
 壁際に吊るされている包丁のなかから、よさそうなのを選びだす。いろんな魚を、調理法に応じて、てぎわよくリズミカルにおろしていく。
 今ミンは、午前中はサイアルのもとで、鉱山内で使える魔法の明かりを作る研究を手伝い、午後は厨房の仕事をしていた。なぜか、料理の方でも評価されていて、「魔法なんかやらせておくにはもったいない」などと言われていた。
 ミンにとって、料理は最高の楽しみだった。素材を探すこと、工夫すること、組み合わせること、魔法との共通点がいろいろあると感じていた。
 夢中になって、魚を、揚げたり焼いたりするところまで手伝っているうちに、大分時間が過ぎてしまった。
 吹き通しの窓から差し込むあかね色の夕日に、自分の長い影が伸びている。
「あれ? しまった……」
 ──マイネク先生、もう着いてしまったかな……?──
 ミンは、厨房を抜け出した。まっさきに、先生を迎えるつもりだったのに、すっかり忘れていた。
 ──とにかく、一度自分の部屋に戻ろう。──
 廃坑を手入れして作った建物の中に、ミンの部屋はあった。階段は少し昇るけれども、窓からの見晴らしと風通しはけっこういいのだ。
 二段づつ、ミンは石段を昇っていった。
 木の枠で囲われた入口から、中に入る。入口は暗いが、廊下は外の光が入るようになっている。靴を、すこし乱暴に脱ぎ捨てて、ミンは自分の部屋のドアを開けた。
 ──あれ? 窓閉めてきたかな?──
 一瞬、ミンはそう思った。部屋の中はまっくらだった。──いや、窓は確かに開けたままにしていたはず……──
 ──おかしいな……?──
 ミンは、慎重に、部屋の中を見渡した。
 闇の中で、何か白いものが動いた。
 息をこらして、注視する。次第に闇に慣れてきて、ドアからのわずかな光に、柔らかな何かが動いているのがわかる。
 じっと見ていると、縦長のドアの隙間を映した、ごく小さな光点が二つ現れる。
 ──……目だ!──
 そう思う間もなく、白い布の下から、ゆっくりと、上目づかいの瞳があらわれる。ばさばさの前髪に、見え隠れしながら、じいっとミンの方をうかがっている。
 布がぱさりと、落ちた。
「…………あ!……」
 ミンは、思わず声を立て、とっさに、右手をくちもとにあてた。
 華奢なからだに、すきとおるような白い肌。濡れたようにまとまり、ゆるやかに波うつ栗色の髪。
 ものうげに伏せられた、あでやかなまつげ。
 よどむ闇の中から、ゆっくりと頭をもたげる凄まじいまでの鋭さ。
 部屋に入るのをためらい、二、三歩後ずさり、そのまま、そっとドアを閉めてしまう。
 ──あの子は、……間違いない、夢の中で遊んでいた、あの子だ……!──
 自分の胸に手を当てる。激しく、どきどき言ってる。自分の視線があやふやで定まらない。
 大きく息をはきだし、心をおちつけようとする。
 あの子は、誰なのだろう?
 夢の草原に、あの子が現れなくなって、半年近くたっていた。誰にも言わなかったけれど、とても気掛かりだった。それなのに……。
 ふと、気づくと、かたわらに、マイネクが立っていた。
「あ、……先生……」
 ミンは、半年ぶりに会ったマイネクに、あいさつを忘れるほど動揺していた。
「どうした、ミン。かなり心配そうな顔しているな」
「いえ、何でもなくて……」
「それならいいんだけどな。ひさしぶりに会ってそれじゃ、こっちのほうが心配になる」
「……ごめんなさい」
 マイネクは、ミンを見上げるようにした。
「いや、いいんだが……。ところで、ミン、白服の女の子をみかけなかったかな? まだ十ぐらいで、栗色の髪で……」
「えっ!?」
 思わず、ミンは息を飲む。
「なんだ?」
「今、私の部屋にいた子だ……」
「……ああ、やはりそうなのか……」
 ミンは、目の前の、自分の部屋のドアをゆびさした。もういちど、そっと、中をうかがいながらドアを押し開けた。
 女の子は、シーツにくるまって、眠っているようだった。
 窓を、音をたてないように開く。少女の頬が、淡いあかねいろに染まる。
「この子は、いったい誰なの?」
 マイネクは、ミンに耳打ちした。
「……たぶん、君の言っていた『アキ』だろう。王城の連中に追われていたから助けたんだ。もう半年近く前のことになるな」
「アキなの。まちがいないと思うの」
「……やはり、……そうなのか……」
 マイネクは、じっと少女を見つめた。かるく閉じたまぶたの、長いまつげと、なめらかで白い肌は、まるで人形のように見えた。やすらかな、かすかに聞こえる寝息がなければ、生きているとは思えない。
「ミン……」
「はい?」
「……この子、君にまかせられないかな……。この子は確かに君を求めている」
「……はい……」
 何かの疑問がわくまえに、ミンは答えだけ返した。
「……この子はな、この町に着くと勝手に駆けだしていってしまったんだよ。君のところにな。……君の部屋がどこなのか知らないはずなのにな……」
 最後にそう言って、マイネクは出ていってしまった。

 つぶさに、ミンは、アキを眺める。
 夢の中より、ほんのちょっと、成長しているように見えた。豊かに張っていた唇が、少しだけ薄くなり、気品と色香をただよわせている。丸かった頬が、わずかに肉が落ちて、大人の輪郭に近づいている。
 床に横たわるアキを寝台に運ぼうとして、ミンは、アキのくびすじとふとももの裏に手をかけた。
 ──軽い……──
 すんなりと、からだは持ち上がった。
 そおっと、竹と藤でできた寝台に横たえた。上に、布を一枚かぶせる。
 布の上から見えるからだの線も、細かった。
 白絹のような手を取ると、ひんやりと冷たかった。
 ミンは、アキの側に横になった。
 冬の終わるころ、街で大陸の細工師の作った人形を見たことがあった。細工師が、おのれの胸奥に隠した想いを現せるまで、くりかえし肉付けされては削られ、生み出された純粋な結晶のような……。まるで創造の神がそうしたかのような、きめ細かなアキの肌を見つめる。
 ──おや?──あおむけに寝かせたアキが、ミンの方へ寝返りをうった。細い腕が、ミンの首をからめとる。
 ──弱ったな……起きるに起きれなくなったよ──どかせようと思うには、アキの腕はあまりにも気持ちよすぎた。耳元すぐそばでアキのかわいらしい呼吸音を聞いているうちに、ミンのまぶたも自然と重くなってきた。
 陽が落ちてしまい、部屋の中は、何も見えないほど、暗くなっていた。
 いや、……
 暗い中に、光る微小な粒が、いくつもただよっていた。
「これは……」
 ミンはつぶやいた。
 明るく輝く、いくつもの光の玉が、空間を満たしていた。
「ここは、……アキの夢の中……」
 振り返り、天をあおぎ、足元をみつめる。
 宙に浮いているのだろうか、上下左右、無限の遠くまで、光の玉に満たされていた。真昼の白色、月の黄色、夕方の茜色、早朝の藍色……さまざまな色がかさなりあい、アキの白服を染めていた。
 アキは目を閉じ、ミンの側で横たわるように、やはり、空間の中に静止していた。
 冷たい風が顔を襲い、ミンは思わず目を固く閉じた。
 まぶたに感じる光に、おそるおそる、目を開けると……
 見覚えのある、小屋の中……。

 明るい午後の日差しが、小屋の中までまぶしく照らしていた。
 質素なテーブルの上には、だいだい色の花びらが、散らかされている。
 かたわらの椅子で、アキが眠っていた。ほほえましく、首を傾けて、すこし窮屈そうに寝ている。ふとももに置かれた両手に、花冠が今にも落ちそうにちょこんとひっかかっている。
「……アキ!」
 彫刻のように、なめらかなまぶたが、そっと開かれた。
 桜色の唇がうごく。
「……あ、……眠ってたの? あたし」
 ──そうなのかな?──ミンは思ったが、いつのまにかやさしい表情を作っていた。
「眠ってたみたいね」
 アキは手元に視線を落とした。
「あれ? 花冠できてますね。おねえさまが作ったんですか?」
 ミンの心に、不思議な記憶が、よみがえってきた。何の不自然もなく、言葉が浮かんできた。
「アキ、作り終わってから眠ったみたい」
「そうなのかなあ……?」
 くすっと、アキは笑った。無邪気な、太陽より明るい、笑顔。
 指がなめらかに動き、ぴんと伸びて、アキは花冠を取った。髪が花に飾られる。
「どうです? 似合ってますか?」
 ミンは、息を飲んだ。言葉を一瞬失ってしまった。
 野の花のために、天が与えたささやかな美。それがまるで、この少女を輝かせるためだけに、作られたかのように、思える。
 きりっとひきしまった眉。妙なる均整を保ち、なめらかな曲線をえがくりんかく。ぱっちりと開かれ、見ている者をはじきかえすほどの力を持ち、いったんまぶたをゆるめれば、人の心をすいこんでしまう、深く、輝くとびいろの瞳。
 少年のように細い腕と足が、すらりと伸びて、ちょっとポーズを取った。
 今、この瞬間だけだった。少女とよべないほどの、残酷な美しさを瞳に宿しながら、無垢さを失わずにいる。
 アキのカラーは、白。様々な色を映し、何にでもなるだろう。オレンジの花を持てば明るい少女となり、真紅の花とグラスでも持てば、美しい妖婦にでもなるのだろう。
「すごいね。……よく似合ってるよ」
「ほんとに? うれしいです」
 たわむれに、アキはミンの頭に花冠をかぶせてみせた。漆黒のストレートの髪に、だいだい色はよく映えた。
「あら、……かわいくなるんですね」
「そおなの?」
 テーブルに顔を埋め、眠たそうに、アキはミンを見ていた。ひざしが、アキの背中をやさしく照らし、ここちよい眠りにいざなっていた。
「あれ……?」
 いつのまにか、アキはまた寝ていた。
 ミンの心にも、眠気がぐっと襲ってきた。頭がくらりとして、思わず目を閉じる……。
 はっと気づくと、首すじに重たい感触があった。さわってみると、あたたかく、やわらかだった。
 アキは、おちついた、寝息をたてていた。
 そこで、ようやくミンは、現実に気がついた。──ああ、ここは私のベッドの上で、横でアキが寝ているんだ……──
 なま温かいしずくが、ミンの腕に触れた。
 ──アキ、泣いてるんだ──
 部屋はもう真っ暗で、何も見えなかった。今が何時ころなのかもわからない。夜鳥の、哀しげな啼き声が山々をこだまする。
 ぼんやりした頭で、ミンは、アキのことを思っていた。──この子は、どんな過去を、感じてきたのだろうか……──
 再び、ミンは、目を閉じた。
 ふと、目を覚ますと部屋の中は薄明るく、空気は朝の匂いがした。

 閉め忘れの窓から、秋の朝風が吹き込んできた。きりっとした冷たさが、新しい一日のための活力を与えてくれる。
 ミンは、いつものように、ベッドの上で上体だけ思い切り伸びをした。そして、そっと傍らを見る。
 横向きになって、ミンにもたれかかるように、アキが眠っている。ミンが起きたので、両手が投げ出されていた。
 栗色の髪に触れてみると、細やかで、やわらかかった。
 アキは涙に濡れた目を、薄く開けた。
「あら? おはよう、アキ」
 少女は、無言で、微笑んでみせた。
「……『アキ』でいいよね?」
 にこっと笑って、少女はミンの腕を引き寄せた。
 ──この子は、声では話さないのかな?──
 ミンはそう思った。
 腕を通して、アキのうれしさが伝わってきた。ほかほかと、ミンの心があたたまってくる。──言葉がなくても、この感覚だけでじゅうぶんだね──
 カラン、……
 遠くから風に乗って、はっきりと鐘の音が聞こえた。鉱山町の町役場の屋根には、鐘が据えつけられていて、金、青、空色、白、橙、紅、と色の名で呼び表される時間ごとに鳴らされ、町全体のリズムを作り出していた。
 鐘は、「青色(午前8時頃)」の音色で鳴った。
 ──いけない! 寝過ごしたかな?──
 あわてて、いつもの調子でミンはドアを開けて出ていこうとして、ふと視線に気づいて振り返った。
 上目づかいに、きょとんと、無垢な表情で、アキが見上げていた。ずっとそのとびいろの瞳を見ていると、アキの心の中に吸い込まれてしまいそうだ。
「アキ……来るの?」
 こくりと、アキはうなずき、腰掛けていたベッドから立ち上がり、二三歩、たたっと小走りでミンのところまで来て、ミンの藍色のシャツの裾をしっかりと握った。
 アキは、こつんと、ミンの背中に額を当て、目を閉じた。
 ──かわいいな。──ミンは、くすっと笑って、アキに合わせて、ゆっくりと歩きはじめた。アキはずっと、裾をつかんで離さなかった。二人をひとしく包む、心のあたたかさがうれしくて、ミンはあえて言葉をかけようとはしなかった。
 坂を下りていくと、鉱山町の中央広場に出る。広場に面した、三階建ての建物が、町役場で、広場に面した部分は、白壁ののっぺりした壁になっていて、屋根の木製の樋のところに目立つように龍の彫刻がしてある。
 正面玄関から廊下を右に入って、いちばん手前右手がわの部屋が、町の魔法使いの集合所になっている。
 ミンは、アキを連れて、開けっぱなしのドアから、中に入っていった。
「……ミン、遅刻だよ」
 五年先輩の、やさしいお兄さんといった感じの、ソーウェから声をかけられた。
「ごめん、寝過ごした」
「……その子のせい?」
 言われて、ミンは後ろを見た。人見知りする子供のように、アキはミンの背中にぴとっとくっついて、おそるおそる、首を出したりミンの後ろに隠したりしながら、皆を見ていた。
 ねまきのような、頭からすっぽりとかぶる白服のままだ。
「誰なんだい? その子は」
 サイアルが聞いてきた。
「私の、いもうとなの。アキっていうの」
 いたずらっぽく笑うミンに、サイアルはちょっと驚いた。横に座っていたマイネクに耳打ちされて、サイアルは笑ってうなずいた。
「“いもうと”も、魔法使いなのかい?」
「そう。でもまだ『入門』なの」
 鉱山町の修行中の魔法使いは、ハルノ、サイト、ディナ、アイカ、と呼ばれる四つのランクがあって、アイカを卒業してようやく「ウィラ」と言われる一人前の魔法使いになることができた。アキが鉱山でミンといっしょに修行を始めるなら、まず「ハルノ(入門)」の位をもらうことになる。
「そうか……それなら、ミンは、今日はアキに町の見学をさせてくれないかな?」
 ミンの表情が、ぱっと輝いた。
「はい」
 サイアルのやさしい心づかいがとてもうれしい。
 ──どこを、どういう順番でつれていこうか──ミンは楽しげに思いをめぐらせる。
 くいくいっ、と裾がひっぱられた。あれ? と思って振り向くと、“どうしたの?”と言いたげに、アキが見上げていた。
「今日は、ここの見学なの」
 そっと、ミンがささやくと、アキは目を伏せ、うっとりと微笑んだ。

 リズミカルに、きりもなく、高く鋭く響く金属音に、アキは耳をふさいでいた。それでも、炉の中で青く輝く魔法の光から目を離せないでいた。
 町の工房では、一日中、鉄鋼が伸ばされては鍛えられ、切れ味鋭い「ケンネ刀」が作られていた。大陸でも貴重品扱いの小刀は、高温で安定している魔法の火と、不純物のない魔法の水で焼き入れされることが多かった。
 町を出て、鉱山の方へ行くと、高い換気用の塔が目立つ。これは近くを流れるシダ川の地下水流を利用して動かされているが、いざというときのためにいつでも魔法の力を流し込んで動かせるようにできている。
 坑道の入口は、かなり広く作られていて、だいぶ人の出入りがあった。出ていく人は、ミンと軽く会釈を交わす。
 中に入ってすぐのところは、大広間のように掘り抜いてある。天井はなく、おわんの底のようになっているが、自然光が差し込んでかなり明るい。ここから、三方向に道が分かれていく。
 一休みしている坑夫に、ミンは話しかけた。
「オードさん、……今日は、どこの道で採掘をやっているの?」
 狭い鉱山なので、ミンは坑夫たちのだいたいの名前と顔を覚えてしまっていた。
「ああ、ミンさん。今日は真ん中の道ですよ。しかし、けっこう、危ない場所だから、気をつけて」
「危ないの?」
「地層がゆるくて、上から小石とかが降ってくるんですよ。つっかい棒立てながら、ゆっくり掘って行けばいいのに、大丈夫だと言ってきかない奴もいましてね」
 ──しょうがないな。……大事故にはならないと思うけど……──ミンはそう考えた。
「ところで、ミンさん、そばの女の子、誰です?」
「私の“いもうと”なの。魔法使いの修行のために、今度ケンネに来たの」
 ミンは、“いもうと”をはっきりと発音した。そのわざとらしさに、オードも、──ああ、「妹弟子」なんだな──と思った。
「そうなんですか。今から、見学ですか?」
「そうなの」
「中央坑、危なくないですか?」
「でも、掘っているところまで行きたいから」
 オードは、苦笑いした。坑内のいちばん奥まで行きたがる女性は、魔法使いにしてもめずらしい。
「……気をつけて、くださいよ」
 ミンは笑顔で答えて、真ん中の坑道に歩いていった。足早に、アキがついてくる。ミンの背中にぴったりと着くようにして。
 魔法の明かりは、呪文を封じた水晶石を、魔法空間の力を直接流し込むことによって光らせている。石も完全に透明なものは少なく、だいだい色や薄青色のものが多かった。
 坑道の壁に映る、七色の光を見て、ミンは、──アキの夢の中のようだな……──と感じていた。
 階段の影になっている部分が、ちらちらと揺れていた。うす緑の水晶の光が、息もたえだえにゆらめいている。
 ──あれ? またおかしくなってる……──
「明かり、直さないとね」
 振り返って、アキに微笑みかけ、少し背伸びをして、階段の下からぶらさがっている水晶玉を、てのひらにからめとった。
 このごろミンは、「自分自身を背後から眺める」という想像をするだけで、簡単に魔法の知覚に入れるようになった。魔法の視覚に彩られた水晶玉は、光る力の流れにふらつきがあり、よく調べてみると呪文を動かすために蓄えられていた力が、なくなりかけていた。
 ──この魔法玉は、あんまりいいものではないね……──
 もっと良質のものなら、空間から呪文を動かす力を直接取り入れることもできる。この水晶玉には、そこまでの呪文を封じる容量がない。
 額に水晶玉を当てて、力をそそぎこもうとする。
 心の“小箱”を開いた瞬間、いつもとは違う感触がした。
 細やかな、乳白色の光の粒が、胸の奥から後頭部へ流れてくるような感じ。こんなイメージはミンの魔法にはない。
 ──……まさか、これは……──
 一瞬ためらったが、水晶玉に力を封じることはすぐに終わった。吊るすためのフックに玉を掛け、肩ごしに後ろを振り返る。
 とびいろの二つの瞳が、好奇心をあらわにして、見つめている。
 そっと微笑みかけると、アキは安心したように、軽くまぶたを閉じた。
 ミンは、アキの手を取って、さらに奥へ連れていこうとした。……そのとき……。

 奥の方で、激しい音がした。何かが爆発したような、……たくさんの岩が落ちて転がる音。足元に衝撃が走り、強い風が吹いて砂のにおいがただよう。魔法の明かりが揺れて、またたく。
 ミンは、アキを胸元に、きゅっと抱きしめ、風に背を向けた。
 ぱらぱら、と小石をばらまく音が聞こえ、やがて風もやんだ。
 坑夫が一人、走ってきて、ミンの姿を認めて足を止めた。
「……ミンさん! 事故です!」
「わかった、行くよ!」
 一瞬ためらったが、ミンはアキを連れていくことにした。アキを一人で、暗く危険な坑道の中に置きたくはなかったのだ。
 岩が多く、歩きにくい道をミンは走っていった。アキは、細い足でけんめいに追いかけた。
 奥は魔法のあかりが消えていたので、ミンは呪文を唱え、手に持っていたランプを輝かせた。
「これはひどい……」
 道があったはずの場所は完全に塞がれ、砂ぼこりが立っていた。大きな岩が幾層にも積み重なって、わずかに残ったすきまから、うめき声が聞こえてくる。
 ──よかった、まだ生きてる……──ミンは、岩のすきまに話しかけた。
「……今助けるよ! 少しじっとしてて待ってて!」
 そして、一歩下がって、ゆっくりと深呼吸した。肩ごしに振り向き、アキに言った。
「そこを、動かないでね」
 アキがうなずくのを見て、ミンは再び深呼吸して、息を整えた。
 ──荒技だね。今までやったことはないけど、できるはずね……──
 自分に語りかけ、両手を重ねて唇の前に合わせ、精神を集中させていく。
 うなじから、額の先に、風が通るようなイメージをする。魔法の力が幾重にもうずを巻き、奔流となって腕へと流れていく。
 胸の中の呪文を呼び覚ます。岩を砕き、土へと返す呪文。発動できるレベルにまで、自分の精神を高めていく。魔法空間の様々な模様がミンの脳裏に現れては、猛スピードで後方へと消えていく。
 そっと、てのひら全体で、岩に触れる。
 さらさらと、岩は砂となってはがれおちていく。砂は、一本の明瞭な弧をえがき、坑道の壁を伝い、外へと運ばれる。
 緊張を高めつつ、一歩、二歩と前へ進む。
 徐々に岩は崩れ、やがて、人の姿が現れる。
 風が、やわらかく、うずを巻いていた。
 アキは、片ひざをつき、あたりを見回した。砂の川が何本も、アキを避けて、坑道の壁に沿って激しい流れを作っていた。
 不思議なほど、静かに、かすかに、砂の音が聞こえる。
「どうした? 何事だ?」
 サイアルを先頭に、何人かの男が走ってきた。落盤の報せを聞いて急いできた魔法使いたちだった。
 アキは、両足で、立ち上がった。
 きっ、と、真顔で、サイアルを見つめる。両手を前にかざし、来るな! というジェスチュアを作る。
 とび色の瞳が光る。
 ──「わたしたち」の邪魔をしないで!──
 心の叫びを、サイアルは感じとった。アキの気迫に押されて、身体が凍りつく。
 ミンは、かざしていた手を、ゆっくり下ろした。
 二三度、大きく、息をつぐ。
 岩は完全に取り除かれ、岩につぶされた坑夫が三人、血まみれで転がっていた。目は閉ざされ、口許はゆがみ、息は荒く、時々せきこんでは止まった。
 坑夫の手をミンはそっとつかんだ。自分の心を再び高め、魔法の力を腕ごしにそそぎ込む。力は魂に達し、魂はみずから活性化して、傷をいやしていく。
 骨まで見えていた傷が、だんだん、ふさがれていく。骨は繋がり、血管ももとどおりになり、やがて、きれいな皮膚が表面を覆う。
「…………ミン……さま……」
 男は、薄目を開き、おぼろに見える姿に、声をかけた。
「もう、大丈夫ね。ゆっくり眠っていて……」
 ミンは応えて、別の坑夫の腕を取った。
 無意識のうちに、サイアルはつぶやいていた。
「……すごい……、これほどとは……ミンの力は……」
 常識では考えられない。死に至る道さえも断ち切って、魂を引き戻すほどの力……。

 アキは、張りつめた糸が切れたかのように、がくりとひざを落とし、両腕で顔をかばってうずくまった。
 サイアルは驚き、駆け寄って助けようとする……。
 ──……! なんだ……ここは!?──
 サイアルは、一歩進み出ただけで、ただよう不思議な魔法の空間に包み込まれてしまった。
 そこは暗やみで、微小な輝くいくつもの粒が、天から、地から、いくすじもの流れになってアキを包み込み、空高く登り、滝のようにミンへと注ぎ込まれている。
 差し延べる両手に力は集まり、魔法の目にはまぶしいほどだ。
 だが、……明らかにアキは弱っている。このあふれんばかりの力は、確かにアキのもの……。
 マイネクの言っていたことが瞬間的に思い出される。──ミンとアキは、魂が触れ合っている……どちらかが魔法を使えば、両方に影響が出る……!──
「待て! ミン!」
 サイアルは思わず叫んでいた。
 さっと、ミンは肩ごしに振り返った。
 もう、ほとんど三人の治療は終わっていた。
「何なの? サイアル先生」
「アキが倒れた!」
 険しかったミンの表情が、不安げに崩れた。あわててアキのそばへと駆け寄る。さすがに、疲れたのか、足もとがほんのわずかよろめいた。
「……これは……!」
 ミンはうずくまるアキの背中をやさしく抱きかかえ、顔を地面に擦るように表情をのぞきこんだ。
 視線の定まらないうつろな目で、口は半開きになって、荒い呼吸を続けていた。顔に血色はなく、白い肌が青みがかってみえた。
 ミンはアキの身体をゆすった。
「アキ……アキ……! どうしたの!?」
 むらさき色になった唇が、ほんのわずか動いた。ミンは、アキの口許にそっと耳を寄せる。
 かすかに、いくつもの小さな鈴を鳴らすような、ささやく声が聞こえてきた。
「……砂の川だ……。たくさんの色が見える砂……。魔法の珠もいっぱいある……きれい……」
 ──夢の中の、アキの声と同じ……──
 ミンは、おぼろに、そう感じた。
 ──私の心を惑わす……魔法のような声さえも、本当にこの子のものだったんだ……──
 両足にしっかり力を入れ、ミンはそっとアキを抱えあげた。腕と胸のあいだに、かかえこまれてしまうほど、アキは小さく、軽く感じられた。
「どうすんだ? ミン」
「この子を、とにかく外に運ぶの」
「俺がやろうか?」
「いえ、私がする……」
 毅然とした瞳で、ミンはサイアルを見つめ返した。
 木の階段を、一歩一歩、確認しながらゆっくり昇っていく。足が緊張に細かく震えている。
 長いみつあみをなびかせ、少女を抱いて、歩くミンの後ろ姿は、サイアルには神々しくさえ見えた。何者も寄せつけない力が、背中に感じられた。
 浅く目を閉じ、ぐったりと身体を投げ出しているアキを、ミンは自分の部屋まで運び、寝台へ横たえた。
 そして、一日中、心配そうに見守っていた。坑夫たちを直せても、目の前のアキをどうにもできないもどかしさを感じながら……。

 ほとんど丸一日眠り、アキは翌朝になってようやく目を覚ました。ひどいけだるさはほとんど消え、朝のすがすがしさだけを感じていた。
「おはようございます、ミンねえさま……」
 小さな鈴の音のような、高く、きれいな声だった。──こんな「声」を聞くのも素敵だね……──。ミンはちょっと戸惑ったが、あいさつを返した。
「……おはよう、アキ……もう大丈夫なの?」
「はい、心配させてすいません」
「いいの。ごめんね。……完全に直るまで、今日は一日休んでいるといいよ」
 ミンは、膝立ちになって寝台にほおづえをついていたが、ゆっくりと立ち上がった。徹夜のせいか、頭がくらっときた。
 外に出て、わき水を直接両手にすくって、顔を洗う。早朝の冷たい水で、なんとか眠気を追い払う。朝風が、ミンの頬をひきしめる。
 広い道へ続く階段を下りきったところに、サイアルの住む小さな家があった。朝早くなので、少し気が引けたが、ミンは裏口に回り、そっとドアを叩いた。こうすると、家人を起こすことなく、サイアルを呼ぶことができるのだ。サイアルはミンに、用があったら、昼夜おかまいなしに、呼んでいい、といつも言っていた。
「おお、ミンか、やっぱり来たんか」
 幸いに、サイアルは起きていた。裏口から、廊下を伝ってサイアルの部屋へと入る。
 粗雑に見えて、実は細かいところまで気のつくサイアルらしく、朝に一杯の、紅茶の香りがした。木製の素朴な椅子にミンは腰を下ろした。サイアルは、人の良さそうに笑って言った。
「昨日のことか? ミン」
「はい……、アキのことなんだけど……」
 うむ、とサイアルはうなずいた。がっちりした体格の、太い腕を組んで、考えるそぶりを見せる。アキのことを聞かれるのは、前もってわかっていた。それで朝早くから起きて、思案をめぐらせていたのだ。
 ゆっくりと、じらすように、紅茶をいれ、ミンのテーブル向かいに座る。二、三度、顎の虎髭をなでる。
「ミン……君は、あの子と近すぎるな」
 サイアルは、ミンの瞳の真芯を見て言った。
「……近、すぎる?」
「あの子……アキは、君の夢の中に出てきた子なんだろう?」
「そう……なの」
「夢、魔法空間で、出会う、ということは、ふつうは、ないんだよ。君とあの子は、魂のどこかがつながってるんじゃないか?」
「それ、どういうことなの?」
「……ううむ、……簡単に説明できることでもないんだが……。魔法空間には、いくつもの階層があるわけだが、その深いふかーいあたりで、おたがいの距離が密着するほど近い……。と、……ずいぶん観念的な言い方ですまないが……」
 ミンは無言で、視線を足元に落とした。
「だから、ああなったの?」
 あえて自分からは、事件の本質を話そうとはしなかった。
「そうだろう。君は、魔法を使おうとすると、アキから力を吸い取ってしまうんだな。ふだんぐらいの力なら、別になんでもないのだろうが、昨日ほどの強力な魔法を使えば、まともにあの子から力を奪ってしまうな……」
「まずいことだね……」
 まるで、他人事のように、ミンはつぶやいた。──認めたくなかったのに、……やはり、そうだったのか……──
「だがな、ミン。アキの力をすいとってしまうのは、君にも原因があるんだよ。結局、君は自分でアキとのつながりが見えていない。それは、自分自身がまだわかってないからだろう?」
 サイアルは、ここで視線を外し、一口紅茶をすすった。
「……考えておくよ……」
 ミンは、そっと立ち上がったつもりだったのに、椅子はガタリと音を立てた。
「君が、アキを思う気持ちも、わからんじゃないが、……自分も大切にしたほうがいいよ」
 サイアルの言葉を背に受け、無言でミンは出ていった。いろんな考えがあふれてきて、止められない。

 ──ときどき怖いと感じるほどの、自分の力が、どこから来ているのか、わからない。このままでは、私が、大きい魔法を使えば、あの子に負担をかけてしまう……。──
 休んでいるアキを見下ろす。
 無表情のはずの寝顔が、微笑んだり、泣いたり、怒ったりするように見える。
 黒髪をかきあげ、アキに額を寄せた。忘れていた眠気がおそってきて、ミンはベッドの上に組んだ腕に顔をうずめて、不自然なかっこうで眠ってしまった。
 そこは、無数の色の珠が浮かぶ空間だった。
 ──ここは、……アキの夢の中……私の心へ入り込むところ──
 珠の流れは、ミンを、いつもの草原へといざなっていた。このまま流れに身をまかせていけば、アキのいる草原へと行ける……。
 しかし、……今はそんな気分になれない……。
 ──いつかは、アキとも別れないといけないんだろうか? そのいつか、がいつくるのか……できれば遠く、できるなら永遠に来なければいいのに……──
 おぼろな頭で、ぼおっと思う……。
 流れを断ち切り、ミンの心は、より深く、夢も見ない眠りへと落ちていった。

 結局、ミンは昼前に目が覚めた。アキは起きてもぼおっとした感じでまた眠ってしまうのを繰り返していた。ミンは午後は仕事に出て、夕食は食堂から自分たちの部屋まで運んできた。
 はしや、さじを使う仕種も、アキは慣れて品があり、「上流階級」とは縁のないミンにとっては、意外に思えた。
 ──この子は、いったい今までは、どんな生活をしていたんだろう……?──
 ぼおっと見ていると、いきなり話しかけられた。
「ミンねえさま……あたし魔法の勉強がしたいんです……」
 普通の少女の、希望を持った輝くような表情。いやと言わせない、夢見がちな視線がミンを戸惑わせるほどの明るさだった。
「えっ、……ええっ?」
「魔法、よ。あたしこれでも、けっこう魔法できると思います」
「そうだね。……サイアル先生かマイネク先生に頼んでおくよ」
「ねえさまは、教えてくれないんですか?」
「えっ、私が?」
 思わず、はしが止まり、煮込みの野菜が転がり落ちた。あわてて、拾い上げて、シャツの汚れを指でぬぐう。
「ねえさまの方が、いいな」
「そう言われても、ねえ、私は人に教えられるほど魔法やってないの」
「でも、魔法は、すばらしいです」
 あらためて聞くと、声も、昔夢の中で聞いたときより成長しているように思えた。ハスキーなところがなくなって、高く澄んだ、妖精のような声になっていた。
「教わるなら、サイアル先生の方がいいよ」
「そうですか?」
「あした一緒に頼みに行こう」
 ──そういえば、この子は、ずっとマイネクといっしょだったはずだね。それなのに、何で魔法教わってなかったのだろう……──ミンは、少し、まずいことを言ったかなあ、と心配した。
「……ねえさまと、いっしょなら、行きます」
 アキの言葉は、ミンをほっとさせた。
「そうね、行こう」
 ──もしかしたら、私がアキの力を吸い取ってしまうのは、この子よりも魔法の力が強いからかもしれない。それなら、この子が魔法を覚えたら、大丈夫になるのかも……──ミンの考えには、何の根拠もなかった。しかし、今はこの考えにすがりたかった。
 ──これからしばらく、アキが魔法の修行をするのを、見守っていよう。将来、二人で立派な魔法使いになれるように……──
「ミンねえさま?」
「なあに?」
「あたし、未来は、ねえさまみたいな魔法使いに、なれたらいいと思うわ」
 くすっと笑って、ミンは赤面した。
「そうね、……いっしょに修行しよう」
「はい」
 アキはとびきり明るい笑顔を見せた。


夜の底は柔らかな幻〜第5章