この小さな森から、
私は里を、世界を見ていた。
頭上に広がる無数の枝からもれる光のひとつひとつに、つながる世界の全てが見えた。
翅を打ち高く千メートル。遠くは佐渡島、会津若松の市街地の向こうに猪苗代湖を望む。
さらに千メートル。雄大な会津高原、彼方には太平洋。
三千メートルへ。中国大陸をかすかに眺め。これはもう地球の丸さを感じる高さ。一転して、二分とかからず私の森へ落ちる。
朝露の輝き。蜘蛛の巣の精緻。
葉脈の模様に感嘆し、新芽の産毛を愛でる。
極大から極微まで、全てはフェアリーの領域なんだ。
いたる所で私を呼ぶ声が聞こえた。
「来てごらん、今ここはとても面白いことになっているよ」
それは知っていた。私の愛するこの里がいつのまにか妖精の里と呼ばれていることは。
皆の心にフェアリーが住みつき、皆の想う心が私の力に流れ込む。芸術に立ち向かう崇高な魂も。
居酒屋で繰り返す猥雑なやりとりも。
全て私は愛している。精神の法悦境も、澱んだ泥のような怒りも、全てはフェアリーの住み処だから。
かつてないほど漲る力を得て、
私の存在はこの里へ薄く広がり、次の一瞬には一点に凝縮し、
天高くから降らせるのは祝福の言葉。「幸あれ」と。
この里全てのものに幸あれと。
私に与えてくれた心を、万倍にして返そう。
自然に、精霊に感謝してくれた気持ちを、豊かな実りと天の恵みに。
妖精を愛してくれた心を、私たちからの愛に。萌え出ずる季節の名前を私はもらった。
La primavera
春は、私の季節。