Phase02:萌え出ずる草の野にて

この小さな森から、
私は里を、世界を見ていた。

頭上に広がる無数の枝からもれる光のひとつひとつに、つながる世界の全てが見えた。

翅を打ち高く千メートル。遠くは佐渡島、会津若松の市街地の向こうに猪苗代湖を望む。


さらに千メートル。雄大な会津高原、彼方には太平洋。
三千メートルへ。中国大陸をかすかに眺め。これはもう地球の丸さを感じる高さ。

一転して、二分とかからず私の森へ落ちる。
朝露の輝き。蜘蛛の巣の精緻。
葉脈の模様に感嘆し、新芽の産毛を愛でる。

極大から極微まで、全てはフェアリーの領域なんだ。

いたる所で私を呼ぶ声が聞こえた。
「来てごらん、今ここはとても面白いことになっているよ」
それは知っていた。私の愛するこの里がいつのまにか妖精の里と呼ばれていることは。
皆の心にフェアリーが住みつき、皆の想う心が私の力に流れ込む。

芸術に立ち向かう崇高な魂も。
居酒屋で繰り返す猥雑なやりとりも。
全て私は愛している。

精神の法悦境も、澱んだ泥のような怒りも、全てはフェアリーの住み処だから。

かつてないほど漲る力を得て、
私の存在はこの里へ薄く広がり、次の一瞬には一点に凝縮し、
天高くから降らせるのは祝福の言葉。

「幸あれ」と。
この里全てのものに幸あれと。
私に与えてくれた心を、万倍にして返そう。
自然に、精霊に感謝してくれた気持ちを、豊かな実りと天の恵みに。
妖精を愛してくれた心を、私たちからの愛に。

萌え出ずる季節の名前を私はもらった。
La primavera
春は、私の季節。

 

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うちへかえろう