魔法の定義(と魔法空間)
 タリアの「魔法」ってのは「魔法空間」を使ってするコト全部を言うの。すごい単純な定義だね。
 で、「魔法空間」が何かというと、これがちと難しい。
 魔法空間は通常見知ってる「通常空間」に完全に重なって存在しているんだけど、普通の五感だと通常空間しかわかんないのね。だけど、生物には普段意識されてない「魔法感覚」ってのがあって、これで魔法空間を感知できるの。
 瞑想とかの訓練によって魔法感覚を鍛え上げて行けば、魔法空間がはっきりとわかるようになる。これが魔法訓練の初歩。魔法空間の荒れてるところで魔法感覚を開いたら、ただの森と思ってた世界がいきなり光渦巻く海の底みたいに見えたりする。(まあそんなとこに行けば魔法使いでなくても「何か不安な気分」にはなるかもね。訓練してなくても魔法感覚は誰でも持ってはいるものだからさ)。
 魔法空間には「コモン」と「ハイコモン」があって(後述)、魔法感覚も最初はコモンまでしか見えないけど、修行を積めばハイコモンまで見えるようになる(図1)。(実はハイコモンのさらに上もあるけど、魔法的には未研究の場所なの。)

 でもまあ魔法使いでも、普通のときは魔法感覚は閉じてるよ。
 面白いのは、魔法感覚も普通の五感みたいに感じられるってこと。つまり魔法空間を視て、聴いて、嗅いで……って感じになる。(イオンなんか最初から視覚のナイ人だから、魔法空間も聴覚で感じてるらしいよ)。ちなみに、魔法空間においても、ヒトはおんなじヒトの姿で目に映る。だけどハイコモンにおいてヒトは翼を持つ姿になる。これはもともとヒトは翼を持ってたから、とされている。
 あと、魔法感覚を開いてる限り、かなり高速で魔法感覚を移動させることができる。魔法空間をかなり広い範囲見ることができるの。普通「魔法の目を飛ばす」って言われる。残念ながら、魔法の目を飛ばしてるときは通常の五感は何も感じなくなる。

「複雑さ」について
 はて、こんな難しい項目を二つめにいきなり持ってきていいものか知らん。
 すごく単純に言うと「単純なモノに魔法はかかりやすく、複雑なモノにはかかりにくい」ってことなんだけど。
 通常空間での物理法則で「質量」が重要なファクターであるように、魔法空間では「複雑さ」(=情報量)が重要なの(図2)。だから、単純な岩より複雑なヒトの方が魔法がかかりにくい。ただの鉄のカタマリより剣の方が、ただの剣より鍛え上げられて装飾を施された宝剣の方が魔法的に強いし魔法の影響も受けにくい。

 「複雑さ」を魔法でとりあつかうのは、かなり難しいことなの。モノを壊すんだったら単純な力だけでできるから簡単だけど、モノを作るのはとても難しい。
 モノを作るときは「複雑さを借りる」という作業がどうしても必要になる。これは新しいモノを作るときに、実際にあるモノを利用するってこと。具体的には、剣から複雑さを読み取って同じ剣を複製する複製の呪文(図3)とか、まだ生きてる正常な組織や器官から複雑さを読み取って怪我してる部分を直す治癒の呪文とかがあるね。


 「複雑さ」は呪文と同じように記憶しておくことができる(後述)。だから、複雑さを記憶しておけば、現物がなくても木からパンを作ったりすることができる。
 こういう複雑さの関わる呪文は、どれもものすごく魔法の力を消費するし、呪文自体もかなり難しい。しかも「再現度」の問題があって、元と完全に同じモノを作ることはまず不可能なの。切れ味抜群の宝剣を複製しても、普通の剣ぐらいの切れ味になるのが関の山なの。
 ヒトにおける複雑さは魔法防御力と考えることもできるのね。もちろん(魔法的に)複雑なヒトの方が魔法の影響を受けにくい。
 だけど同じ能力のヒトでもやたら複雑なヒトとそうでないヒトがいる。このへんはどうもランダム要素強いらしくって、複雑な性格のヒトが魔法的に複雑かというとそうでもないみたい。でも能力身につけたり新しいスキル覚えるごとに複雑さってのは上がる傾向があって、魔法的にもだんだん強くなっていくのね。(これが災いして、やたら有能なヒトは傷を魔法で治すのが難しかったりする)。

力と呪文、情報
 魔法を発動させるには、魔法の力、呪文、複雑さ(の情報)が必要なの。
 だけど単純な魔法の一部は呪文ナシの魔法の力だけでOKだし、複雑さの関与しないほとんどの呪文は複雑さの情報は必要ない。
 力だけでOKなものは、念力、温度上昇、風、単純な音、単純なテレパスといったあたり。この中でも高度なことをしようと思うなら呪文が必要だし、呪文を使うことで成功率や精度を上げられるものもある。
 力は魔法空間から取るんだけど、魔法空間のどこから取るかによっていろいろと違いがある。これはじっくりと(後述)。
 呪文というのは魔法的な力をどのような順序でどのように使うか示した、いわばプログラムのようなもので、オリジナルの形だとかなり長くて普通の方法ではまず覚えられない。というか、普通は魔法石なんかに魔法的に記述されてるので、魔法的にでないと読み取って覚えることはできない。これを記憶するには呪文記憶術という一種の魔法を使うの。一度覚えれば覚え直す必要はない。(実は呪文大失敗すると忘れることがある。稀に何もないのに忘れてたりする)。
 呪文は別に口に出して唱える必要とかはなくて、頭の中で強く発動したいと思うだけでOK。呪文を封じてあるアイテムを使えば、呪文記憶術を使わなくても呪文を発動できるね。でも、呪文発動には精神集中した方がいいし、魔法の力を扱うのも細心にやった方が上手くいく。呪文発動までの時間は、ほぼ一瞬。もっとも呪文自体の効果が出てくるまでそれなりに時間はかかる。
 呪文ごとにどれだけの魔法の力が必要かは決まってて、それだけの力を一度に加えないと呪文は発動しない。(後述)するけど、魔法空間の場所によって一度に取れる力の限界が決まっているので、いちばん普遍的な魔法空間であるコモンだけだと発動できない呪文なんてのも結構ある。
 複雑さ(の情報)が必要な呪文は、複製とか治癒とかだね。難しくて力をたくさん使う呪文ばかりだ。

呪文の難しさを決める要素
 呪文の難しさにも、いろんな難しさがある。順に説明するね。
必要な力
 呪文はその必要な力を一度に吹き込んでやらないと発動しない。一度ってところがポイントで、魔法力の密度が薄いコモン空間(後述)からだと、強い力の必要な呪文は全く動かせないってことなの。
 純粋な念力とか熱とか、力を使うほど強力になったり射程が伸びたりする呪文はもちろんある。
呪文の難易度
 これは呪文自体の長さや複雑さによるね。力の入れ方とか微調節が必要とか、まあ他にもファクターあるけど、だいたい「複雑さ」の関わる呪文ほど難しいと思って。
 あと、頭に記憶させて発動するよりは呪文を封じたアイテムから発動させる方が簡単なこと多いね。
 難しい呪文は魔法使いとしての経験積んでないとなかなか成功しないし、その呪文に対してもしっかり習熟してないと難しい。だから魔法使いは必然的に得意呪文が限られてくるの。
作用点
 作用する対象が何かってのはとても重要。水とか空気に比べて、他人、特に敵に作用させるのはとても難しいの。複雑さと協力の問題なんだけど、わかるよね?
 作用点が通常空間か魔法空間かって区別もある。一般には魔法空間に作用させる方が制御しにくくて大変だってことになっている。
正確さ、再現度
 これは魔法使いの頭痛のタネ。魔法空間はゆらぎが激しいし、魔法空間でのちょっとしたズレが通常空間では大きなズレになってしまうことがよくある。というわけで、射程のある魔法というのはなかなか当たりにくいものなの。魔法空間が荒れている(力を持っている)ほど当たりにくい。
 普通の魔法使いなら100ティカ(20m)あたり10ティカくらいのズレは覚悟必要。何にしても。
 再現度というのは「複雑さ」が関わる魔法で問題になるよね。例えば切れ味鋭い宝剣を魔法で複製しても普通はただの剣程度の切れ味になってしまう。元が「複雑さ」が高いほど再現はしにくくなるね。ヒトの傷直すのにも関わってくるから、下手するとすごいことになってしまう。直したところが後から腐ってしまうこともある。
安全性
 失敗したときのリスク。攻撃系がリスキーなのは当然。
 リスクがとにかく高いのが空間移動、つまりテレポート系。魔法自体究極呪文といっていいほど難しいんだけど、失敗すると目も当てられないコトになる、かも。